翁 百合 氏
株式会社日本総合研究所 理事長
内閣官房「新しい資本主義実現会議」構成員
財務省 財政制度等審議会委員
金融庁 金融審議会委員
経済産業省 産業構造審議会委員
厚生労働省 社会保障審議会委員
内閣官房 新しい資本主義実現会議構成員 など
ー 1980年代、男女雇用機会均等法の前に日本銀行へ新卒入社した翁氏。
性別にかかわらず、女性でも等しく機会を与えられることに惹かれ、当時は珍しかった「女性総合職」としてキャリアを歩み始めた。
結婚を機に日本総合研究所へ転職。その後、子育てとキャリアを両立させてきた。
『日本総研は、研究所なので自由度高く、チームというよりは個人で様々なテーマでリサーチ業務に取り組むことが多く、リモートやフレックスなど柔軟な働き方が可能だったと思います。』
「継続は力なり」
不良債権問題が日本でも深刻化する懸念があることを早期から指摘し発信を続けていた翁氏は、やがて公職も任されるようになる。
『海外の事例をリサーチしている中で、日本もこのままでは大変なことになると問題意識を持ちました。不良債権をどうしていくか、破綻処理をどうするのか、金融システムにおける情報開示の必要性を唱えて、ペーパーを書いたり書籍を出版するなど、発信を続けていたことが、公職を任されるきっかけにもなったと思います。』
大蔵省の金融システム安定化委員会へ35歳という若さで参画。株式会社産業再生機構非常勤取締役兼産業再生委員などを兼務。
その後も規制改革会議に9年間にわたって携わり、金融のみならず、医療や介護·保育など多岐にわたるテーマを担う。安倍政権当時は医師会などとの議論で健康医療ワーキンググループ座長として医療分野においても活躍した。
『当時、私は子育てをしている当事者でしたから、保育の現場の課題を身をもって体験していました。また両親の看病や介護なども経験し、実体験も参考にして介護·保育や医療のテーマについて提言をしていくことになりました。』
2016年~2020年において未来投資会議では“健康医療のデジタル化”を提言し、未来投資会議構造改革徹底推進会合「健康·医療·介護」会長を務めた。
2020~2021年には、内閣府「選択する未来2.0」懇談会座長としてコロナ後の社会にむけた課題に取り組む。
『エコノミストとしての仕事は、その時々の重要と思うテーマを分析して論文を書いたり、研究会に入ったりといった活動から始まりましたが、最近はとくに次世代を意識して、データ分析を踏まえて長期の視点から提言をするようになりました。』
客員教授として、慶応義塾大学でも教鞭をとり金融システムについても講義をしました。
『挑戦する勇気、断る勇気。』
民間企業のみならず様々な公職も担う翁氏がキャリアにおいて大事にしてきたことだ。
『仕事において、誠実にという点はずっと大事にしようと思ってやってきました。また、良心に従って生きるということも、大事にしてきました。少しでも良心に違和感のあることがあれば、押し返さなければならないと思ってきました。。』
「失敗こそ成長の機会」― 『そのときにしか出来ないことは、ちょっと厳しく見えてもとりあえず挑戦してみる。挑戦して失敗することは悪いことではないのだと思っています。。失敗をすることによって成長するので、失敗で学ぶことができればそれでよしと考えていけばよいと思います。私もいろいろな失敗がありましたが、それによって学んだことは多いです。
』
「断る勇気も大事。」― 無理せず自分のペースでつづけることが大事だ、と翁氏は言う。『自分にどうしてもできないなら、断ればいいと思います。私自身も最近は本当にやりたいこと、やるべきと考えることに的を絞って仕事を引き受けるようにしたいと思ってやってきています。』
「黒船が来ないと日本は変わらない」
日本が変わるための1つのきっかけがコロナであり、これを危機ではあるけれども、変わるチャンスと捉えることができる企業だけが変わることができる、と翁氏は言う。
コロナという黒船を機に、日本社会も大きく転換するチャンスにある。テレワークの本格化やデジタル化、働き方改革などによって、人々の価値観が大きく変化しつつある。
『これまでの常識にとらわれずに、新しい価値を感じ取って “自分の道”を歩むことがこれからは大事だと、私は考えています。』
2020年5月末 内閣府1万人アンケ―ト
(出所:内閣府「選択する未来2.0」懇談会中間報告)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/index.html
▶ 男性も家事育児をするという価値観が浸透しはじめた
▶ 満員電車の通勤が当たり前だった社会は変わりつつある
▶ 男女が共にワークライフバランスを実現する社会へ少しずつ変わる方向へ
共稼ぎ世帯は片稼ぎ世帯の2倍以上。
M字カーブが解消しつつあり、次なる課題はL字カーブ是正。
「多様性にこそ価値がある」
『多様性を尊重することが大事なのではなく、
多様性があるからこそ革新力もレジリエンス(しなやかな強さ)が伴うのであり、多様性にこそ価値があるのだと思います。』 戦略としての多様性がもたらす価値の重要性をより認識すべき、と翁氏は提言する。
日本企業においてダイバーシティや多様性といった言葉は最近になって注目されているものの、世界からはまだ遅れをとっていて、ここにこそ成長余地がある。
コロナ禍を機に、受け入れはじめられつつある価値観の多様性。
この多様性の受容こそ、日本社会にとってターニングポイントとなる最後のチャンスかもしれません。