小木曽麻里 氏
「あえて異端児的な社外取締役を」

December 6, 2022 | Interview

小木曽麻里 氏

SDGインパクトジャパン代表取締役 Co CEO

三菱商事 社外監査役

明治ホールディングス サステナビリティー·アドバイザリーボードメンバー

SMBC日興証券CIO アドバイザリーボードメンバー

JICA海外投融資有識者委員

元 ファーストリテリンググループ ダイバーシティ担当部長(グローバルヘッド)

元 人権委員会事務局長

世界銀行グループ多国間投資保証機関(MIGA)東京代表

 

 

 

 

SDGインパクトジャパンを設立した経緯は、「社会課題へ資金が向かってほしい」という想いからでした。

今は非常に盛り上がりを見せているテーマですが、少し前までは社会課題へ向くお金の量が少なかったので、「社会課題へお金が回る仕組み」を作るために模索する中でプロダクトが圧倒的に少ないという実情があり、まずはインパクト ファンドを作るところから始めました。

インパクト投資といっても、ファイナンシャルリターンファースト、インパクトファーストなど幅広くあり、これまではインパクトファーストだとリターンを犠牲にしなくてはならず市場が育ってこなかったんです。ただ、カーボンなどのサステナブルテックの分野をはじめとして、様々なプロダクトが登場してリターンも出るようになったということで、ファイナンスリターンもソーシャルインパクトも両方追求できる分野になり世の中の流れも変わってきたんです。

ジェンダーも同様で、もうCSRや人権の観点からのみではなくて「収益を上げるために」インクルージョンやダイバーシティを考えないといけない時代に変わってきたと思います。

弊社のESGインパクトファンドでやっているエンゲージメントの

項目の1つにジェンダーが入っていて、ジェンダーの観点からどうコーポレートの収益性を改善していけるかについてエンゲージメントを行なっています。

 

 

 

「ジェンダー」は氷山の一角?

日本社会の中でも「女性がきちんと活躍できている会社」というのは、社員のエンゲージメントが高かったり、社員の能力をしっかり生かす術を知っている会社であったり、発言しやすい、ヒエラルキーが少ないなど、「ジェンダーに限らずインクルーシブなカルチャーが根付いている会社」であることの裏返しなんだと思います。

女性が活躍している会社の方が収益性パフォーマンスがいいというのは、氷山の一角でそこから深掘りすると、インクルーシブなカルチャーを作っていける会社は収益性パフォーマンスが良いという全体像に帰着するのだと思います。

インクルーシブなカルチャーを根付かせるって、頑張ってやれば必ず収益にはなるんですが、目に見えにくいし時間がかかってそんな簡単にはできないですよね、例えば

エーザイの柳モデルによると7−8年、

スターバックスも賃金格差ゼロにするまで7年、

ユニリーバも「ここまでくるのに25年かかった」とおっしゃるんですよね、

ここまで長期間にわたってやらないとカルチャーは変わらないので、今始めないと日本はどんどん遅れていってしまうと思います。

 

 

 

あえて異端児的な社外取締役を

社外取締役としての役回りは?

今はスキルマトリックスでみられるので、ESGの観点から助言をすることが一つですね。特にSの部分だとダイバーシティや人権、またサプライチェーンマネジメントの部分は専門なのでしっかりや

らせていただこうという意識があります。

あとはやっぱり、「外者の視点」って会社にとっても重要だと思っています。特に生え抜きが多い会社だと同じような考え方の人が多いので、

「あえて異端児的な立ち回りで、忖度しない/遠慮しない質問を投げかける」というのが社外取締役/監査役の役割だと考えています。そして言いっぱなしでなく、フォローアップで社内の人との対

話を通じて解決策を共に探っていくのが重要だと思います。

私自身ソーシャルセクターにもパブリックセクターにもどちらにもいた経験があるので、違う経験を持っている者としての目から、全ての事業において壁打ち相手として違う視点から議論に参加させていただいたりしています。

例えば、ダイバーシティの状況について社内の女性のかたや経営陣、部長レベルのマネジメント層などにヒアリングして内情を把握することで、社外監査役でありながらもボードでは深部まで対話ができる様に社内へ働きかけています。

 

 

 

「共感型」リーダーの時代

 

 

 

 

 

 

女性の「リーダーシップ」とは?

今の女性リーダーって皆さん物腰柔らかくて、偉そうにしているような人は居ないんですよね。

ひと昔前は引っ張っていく力強さがベースにある「牽引型」がモデルケースになっていたかもしれないけれど、時代の変化や多様化もあり今は「共感型」のリーダーが特に女性に多いように思います。

今リーダーとして活躍されている方は「共感型」の部分をずっと積み上げてきて、「共感」を発揮されてきたのではないでしょうか。人をモチベーションづけたり、やる気を出させるのがとても上手な女性リーダーが周りにも多いですね。

 

 

 

「数」の問題ではなく「インクルージョン」ができるか否か

女性ボードメンバーの数を増やさなくてはという投資家などの圧力がありますが、数合わせで女性を昇進させる事例だと全然うまくいかないんですよね。数の問題というよりは、インクルージョンをしっかりやって企業の多様性をうまく収益に結びつけられた会社が成功しているんです。

例えばイギリス金融庁が出したデータ分析でFTSE100の銘柄のうち、インクルージョンをせず単に数だけを増やした会社は収益がマイナスになっている一方で、インクルージョンをしっかり実践し企業の多様性をうまく事業へ結びつけられた会社は収益が上がっているんです。

まずは、いろんな視点が入ることが大事なので、「多様な人がちゃんと働けて、意見を言えて、自分らしさや能力を最大限発揮できる環境をつくる」というゴールに向けて、ジェンダーというのは試金石になると思います。

 まずは数からでも始めるのが第一歩ですね、変わらないと何も始まらないですから。ボードメンバーに限らず、下のマネージャーレベルでも考えるべきだと思いますし、社内にいなければ外から採用するのも一つの策ですね。

日本の場合、外国人も少ないし、LGBTQの方もカミングアウトしていない場合が多かったり、そうなるとジェンダーからまずは始めるのが自然ではあるんですが、諸外国と比べると出遅れていますね。

人的資本開示の波は世界でも叫ばれていて、DEIと言っても、アメリカだとLGBTQや人種、ヨーロッパだと障害者といったように諸外国ではジェンダーは当たり前で、その先の次の課題解決へフェーズが移り変わりつつあります。

日本はダイバーシティの進展という意味で、将来的には外国人などを積極的に入れていかなくてはならないですが言葉の壁もあるから、これってジェンダーよりも大変だと思います。ジェンダー

で躓いていては、この先もっと苦戦するんではないでしょうか··。

 

 

 

これから社外取締役へ就任する方へ

今後、新しく初めて社外取締役のポジションに就任される女性の方も増えてくるとは思いますが、

経営者の視座で議論することは、自身も学ぶことも多いですし、自分の専門の視点や考え方で会社へ貢献もできることは素晴らしい経験です。

大きな企業よりもまずはスタートアップや中小企業からスタートするというのもステップとしては良いかもしれません。

 

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