キャシー松井氏
「日本の最大の “ 含み資産 ” は女性」

February 13, 2023 | Interview

キャシー松井 氏  (Kathy Matsui)

MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー

米日カウンシル 共同理事長

アジア女子大学支援財団 理事

株式会社ファーストリテイリング 社外取締役

元ゴールドマンサックス証券株式会社日本副会長

 

 

 

 

人生の次のチャプターは、「金融」×「スタートアップ」×「ESG」

 

前職ゴールドマンサックスでの金融時代は、アナリストとして経済や株式市場を大概的に数値分析して捉える職で、外部から間接的に経済と関わっていました。

 

今は金融といっても、ベンチャーキャピタル(VC)という形で、経済に直接的なインパクトを持てるような携わり方をしています。

日本の経済成長のためにはイノベーションしかないと強く信じています。

そして、イノベーションの源泉はスタートアップです。

 

「金融」×「スタートアップ」×「ESG」 これら3要素を掛け合わせ、日本でまだ誰も挑戦したことのない切り口から、日本に限らず世界中の次世代の起業家やスタートアップへの支援を通じて社会的/経済的 インパクトを与えるという事をESG重視型のグローバルVCファンドMPower Partnersでの軸としています。

 

 

その他 非営利活動では、

米日カウンシルの共同理事長、アジア女子大学支援財団の理事を務め、その他団体においても幅広く活動しています。例えば、アジア女子大学では教育機会に恵まれない優秀な女子生徒、中にはアフガン難民やロヒンギャ難民、繊維工場労働者だった生徒などもいる中で、彼らに高等教育を提供する素晴らしい機関です。

社会的に大きなインパクトを持てるこうした活動に私自身も貢献できることは大変意義深いです。

 

 

 

ウーマノミクスから23年 ―「これまで」 と 「これから」

 

ウーマノミクスが初めて出版されてから23年が経ちました。

1999年に初版を出した当時の日本の女性就業率は56%で先進国の中では下位でした。

それが 2019年には71%と大きく伸びて、米国(66%)やEU(63%)を凌駕しました。

数字でみると女性の就業率は記録的水準まで上昇したんです。(コロナ禍前)

 

また、2015年に施工された「女性活躍推進法」に基づき民間企業や公的機関に対して、男女比率や役員男女別人数など、多様性に関する情報開示の義務化は変革への大きな一歩になったと思います。

この法令が完璧とは言えないですが、数字的透明性を持たせることで実態や課題が浮き彫りになったという観点からは、横並び意識の強い日本企業にとってダイバーシティに取り組む足がかりになったと思います。

 

しかしながら、リーダー層にいる女性比率の低さが現在喫緊の課題です。
取締役や管理職など、20年前と比較するとある程度改善していますが、他の経済圏と比較するとまだ極めて低い水準です。また政界における女性比率はなおさら低いですよね、約10%という状況が75年前から変わっていないというありえない状況です。

 

 

 

 

アンコンシャスバイアス を取り除くトレーニング

 

政府ができることはまだまだありますが(例えば配偶者控除制度の見直しなど)、

より会社や組織が、女性が昇進する機会を快く受け入れられるようなメンタリティを育むことが重要だと考えています。

 

「ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます」(2020年、中央公論新社)という著書に記していますが、

 

男女の行動の違いが大きなギャップになっています。

例えば昇進の機会を与えられた時やパフォーマンスにおいてネガティブな評価をされた時の男女間の受け取り方の違いや、行動パターンの違いが存在しているのです。

 

例えば、マネジメントの機会を与えられても断る女性が多くいるというのも実情です。

また別の例だと、「アグレッシブ」というワードの響きを、女性と結び付けると男性対比ややネガティブな印象を持たれてしまったりという、そんな些細なバイアスを皆さんも持ってしまっていませんか?

 

私自身もそうですが、誰しもが持つ無意識バイアスを認識して、脳の働きを変えてバイアスなしに物事を捉えられるように訓練することが極めて重要です。

 

 

 

「多様性の認知」が日本には必要

少なくとも共通認識として皆さんに理解していただきたいのは、

ジェンダー多様性というのは単なる人権平等の問題ではなくて「成長のドライバー」であり、経済成長においてダイバーシティ(多様性)は経済合理性があるという事なのです。人権という観点ではなくてビジネス・経済のためのダイバーシティという観点が、より説得力があると私は考えています。

 

そして、またジェンダー平等の観点だけでなく、ダイバーシティというのは性別のみならず、人種や社会的/経済的/教育バックグラウンド、など様々な意味があります。

 

日本において今必要なのは、多様で異なる生い立ちの若者たちがイノベーションを生み出すこと。

 

私自身 スタートアップのエコシステムに身を置く今、男性比率が圧倒的に多く、日本の起業家における女性人口が非常に少ないんです。起業家も投資家側のベンチャーキャピタリストも女性人口を増やすサポートもMPowerでの活動の一つにしていて、時間をかけてインパクトを残したいと考えています。

 

 

 

 

「日本の最大の “ 含み資産 ” は女性である」

 

日本政府は2055年までに現在の40%の労働人口が消失すると予測を出しています。

国家成長の3つのドライバーは、労働力(Labor)×資本(Capital)×生産性(Productivity)。その中で労働力人口40%は縮小して、資本も縮小し、すると生産性が急激に成長しない限りは日本経済は明るくならないのです。

 

日本の出生率が上昇したり、海外からの労働力を取り入れることももちろん解決法のにはなりますが、時間がかかる。

 

この現実を理解して我々がミクロレベルで認識すべきなのが、

この国には、数多くの才能や労働力が眠ってしまっているということ、これを活用するのが最も有効な解決策になるということ。

 

政府の統計で、大卒の女性と高卒の男性の給与が同等という衝撃的なデータがあります。

 

子育てや介護をしながら仕事を続けるためのインフラが整備されていないことも要因ですが、女性フルタイムで勤務するインセンティブが少ない現状や、マネジメント職や責任の伴う職務につきたがらない女性のメンタリティなど、改善できる点が多々あります。

 

企業は人材の評価軸やインセンティブ設計を見直し、時間軸の評価ではなくて成果主義の評価を取り入れるべきです。

 

メンタリングやスポンサーシップ制度を取り入れ、声を上げて女性の昇進を促進するなど、日常のミクロな取り組みをはじめ、全員が当事者意識をもって取り組む必要があるんです。

 

人事部やダイバーシティ推進室などに機能を渡して取り組むだけではあまり効果的ではがありません。この課題は 経営の中核に設定して、経営陣自ら直接的に、そして社員ひとりひとりがこれを優先課題として力を合わせて向き合う必要があります。

 

 

 

 

 

「2030年 女性役員比率30%」の目標についてどう思いますか?

 

2030年はもう目の前です、

可能ではあるかもしれませんが、本質を達成するには、組織や会社や個人が中核を掘り下げて根本からこの課題に取り組まないといけません。

 

女性を採用したいという会社は多いのですが、

例えばIT・機械・メーカーなどの会社だとそもそも候補者の女性がすくない。

日本の若い女性にはリケジョになったりSTEM分野へ進む女性が少ないんですよね、高校まで同等な教育を受けているはずなのに。影響を与えているのが両親なのか、先生なのか、わかりませんが、女性がどういうわけかこの分野に進みづらい傾向がある。

 

 

教育や進路選択の意識から変えていく必要があるのと、そしていざその分野や組織へ進むとなった場合は、

女性のキャリアを支援していき、ポテンシャル枠としてリーダーシップやネットワーク構築をサポートするプログラムを充実させ、

メンターシップだけでなくスポンサーシップといった様々な手厚いサポートや資本を投下する必要があります。

 

これはコストではなくて人的資本への先行投資なのです。

長期的投資であり、長期的に実る利益と捉えるべきです。

 

女性に限らずダイバーシティ全般においても同様です。

 

 

 

 

 

 

今求められているのは、「羊飼い型」リーダー

 

 

私自身も、昔は「先頭で旗を振っていく人」がリーダー像だと思い込んでいました。うまくいっているときや、競争が激しくない時はそれでうまくいっていました。

ところが、数年前には想像できなかったパンデミックや戦争や脅威が起こり企業にとっては厳しい昨今のような局面においては、このリーダータイプはさほど効果的では無い。

 

 

このような局面ではリーダーとしてチーム(群れ)をうまくひとつにまとめ上げる「羊飼い型」リーダーが有効だと思います。

具体的には、

1・チームの意見を聞く。

何が課題と思うか、どうすればいいか、多様な意見を取り入れ、多様な価値観を知ること。

 

2・個々のチームメンバーから最大の力 を引き出すこと。

急激に変わりゆく環境で対応してサバイブするには柔軟性が欠かせません。個々の視点がリーダーによって引き出され、新たな視点・アイデアとして生かされなければ、組織はまた同じような方向へ行ってしまうんです。

 

3・リーダーとしてオープンマインドでいること。

自分がリーダーだというエゴで満たされるのではなく、多様な別意見や視野を聞き入れ、取り入れること。

 

女性リーダーはこのような「奉仕型」「羊飼い型」リーダーが多く、現代求められているリーダー像とも相性がいいと思います。

 

コンセンサスをうまく作ることができ、さらに聞き上手で個々の意見を取り入れたり個々の力を引き出すのが得意な女性が多いように感じます。

 

 

 

 

Nice to have ではなくて Must have 

 

「多様性の効能を認識すること」

多様性が必要なのは、男女比率/数字目標のためではなくて、

事業を拡大させていくにあたって、戦略として多様な価値観が必須であるということを

強く認識する必要があります。

これからの日本の成長には多様性がマストです。

 

 

 

 

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