規制改革推進会議 議長
ピクテ・ジャパン㈱シニアフェロー
名古屋商科大学院 教授
大槻奈那 氏
「リーダー」の形も千差万別。自身の個性にあった型で。
― 女性の「リーダーシップ」とは?
私の尊敬する女性リーダーの方々は皆様、上から目線でものを言うことなど一切なく、偉ぶることなく、素直に教えを乞うような謙虚さや礼儀正しさを兼ね備えていらっしゃるんです。
女性といっても色んな女性リーダーがいて、
一人でどんどん自信をもって進めていける「独立独歩型」
経験豊富で物事を教えてくれる「姉御型」
面倒見も良いし雑用も快く引き受ける仲間意識のある「サークル長(女子会)型」
若いながらも抜擢されて上のシニアからも好かれる「抜擢型」
どんなタイプもそれぞれ成功されている気がします。このパターンでなくてはならないということは一切無いので、ご自身にあった型で自分らしくリーダーシップを発揮されるのが一番だと考えています。
MBA教授になってから長くたつので、色んな組織でトップになったかたや起業されたかた、リーダーとなったかたを多々見てきましたが、リーダー像は千差万別です。
一つだけ言えるのは、自分に合わないパターンで無理している人は一目瞭然で分かってしまいます。
女性も自身の個性に合った形のリーダーシップを執っていかれるのが良いと思います。
「説得力」×「ダイバーシティ」で組織のリスクマネジメントを
これから先は、経済環境も、組織においても、さまざまな状況で相当な不確実性が伴う場面に皆様も遭遇することがあろうと思います。
ディスカッションの中で、発言力が強い人が言っていることに引っ張られる組織、
また、同質性の高い組織ではみんなの意見が一斉に同方向へ行ってしまう組織、
そんな時、「あれ、それって本当にそうでしたっけ・・??」と留まらせることが出来る、ゲームチェンジャーの力がこれからは必要になってくるんではないかと私は思っています。
ゲームチェンジャーというのが、女性や、ダイバーシティ人材 ― 男女のみでなく、若者とベテラン、違う人は、違う考え方で、違うペースで生きています。
このように異なる価値観の人達が共存するダイバーシティがある組織では、
リスクに対して組織が一方方向に向かって行ってしまうときに、別意見の人/ペースの異なる人が歯止め役として機能することもあります。
このように、
「リスクマネジメントの観点からも、ダイバーシティは有効であり必須だと考えています。」
組織の議論や方向性が間違っていると思っていても、100%確信があれば強く主張できるものの、たいていの場合はそこまでの確信がない中でうまく相手を説得する必要がありますよね。
皆さんが引導を渡す、アラートを鳴らさなくてはいけない時がくるかもしれません、
そんな時、この「説得力」のあるコミュニケーションを実践してみてほしいと思います。
「説得力」の6つの要素
チャルディーニ著 「説得の科学」という著書の中では、説得力において6つの本質を上げています。
(出所:Robert Chialdini (1995):”Influence: The Psychology of Persuasion”)
1.「返報性」
人は何かをやってもらったら、こちらもお返しになにかをやってあげたくなるものだという事
2.「コミットメントと一貫性」
人は一度言った事はその後もできれば一貫性をもって言い続けたい、覆して主張しにくい、というメンタリティ。例えば、「~をやります!」と一度いうと「やっぱりやめます」となりにくいということなんですね。
3.「社会的証明」
ほかの人もやっている、とか、他の会社もやっているということです。
先に出た事例のリスクのある投資案件の例だと、「他社も~をやりかけて失敗しましたよね」というような事例がサポートになるということ。
4.「好意」
信頼を得るためには、好きになってもらう事。恋愛だけでなく広義な意味での「好き」です。人が人を好きになる要素は3つ、「自分に似ている」か、「自分を褒めてくれる」か、「同じゴールを目指す仲間である」とChialdiniは述べています。好かれるまではいかなくても、自分に敵意がないことを示し信頼や関係値を築いていく事の重要性ですね。
5.「権威」
6.「希少性」
これをやっておかないと、とか、今しかないよ、というコンテクスト。
皆さんもあらゆる場面で人を説得し、説得されるというのが、社会人としては日々の仕事の中心にもなろうかと思いますので、ご参考にしていただければと思います。
Q 規制緩和に携わる中で、緩和に際して必ずマイナス面やリスクの認識が出てきます。
それを払拭、説得するためにどう工夫されていますか?
規制改革が進まないひとつの理由は、「過度なリスク志向」だと考えています。
イメージの問題だけにすぎなければ、正しくコミュニケーションをとっていき解決すべきなのですが。エビデンスのあるものについては自信をもって数字や事例を提示し「考えすぎです、過保護です」と省庁の方々と議論するようにしています。
規制を変えてしまったら何らかのマイナスやリスクが1000%起こりえませんという保証はできない、いかなる場合のシナリオも検証する必要があります。
事例として、長い事取り組んでいるのにも関わらず改革が進まないのは「労働環境」ですね。
現在、岸田政権も「人材移動の円滑化」に注力しています。それから「職務型(ジョブ型)」「職務給」基準を取り込んでいくなかで、時間にとらわれないとなると労働衛生法上の問題は生じないのか、という議論もあります。
確かにこれはリスクをゼロにすることは難しいわけですので、もう少し技術的/社会的な土壌や制度が作られない限り難しい、という気がしています。
Q 企業単位で出来るDE&I の第一歩 は ?
企業にとっての異分子(=違った考えをもった人)を、インクルージョンしていくにあたって、アンコンシャス・バイアスが大きなハードルになっていますよね。
無意識下のバイアスがあって、自分とは異なる人を受け入れる耐性がついていないことが問題です。
企業単位でできることとしては、会社の外の世界をみて会社以外の他の人たちに触れ、それを内へ取り入れていくことがファーストステップですね。
企業からは少し逸れますが、教育の現場などの学年生をやめることもひとつです。
小さいころから異分子の人が居ない環境で育ってきて、同じ教室で同じ時間すごし同じ授業で、均質な形で進めるのがとされてきている。これではダイバーシティのメンタリティが育たないので、小さいころから色んな人がいる環境に慣れていくことがキーだと思います。
最後になりますがメッセージとしては、
説得力ひとつとっても様々で、また、リーダーの形も多様です。男性もそうですし、女性も然りです。状況にあったプロセスや手段を考えながら、益々ご自身の会社などで自身の成長も含めてリーダーとして輝いていってほしいと思います。